尾骨のあたりに床ずれが出来て、皮が1枚めくれている状態なのですが、ぬるま湯で洗い流し、ガーゼで押し拭き、薄く軟膏を塗ってラップをするという方法を、経験者から聞きましたが、この方法で間違いありませんか?

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褥瘡 (床ずれ) のケアの方法はいろいろとあって、このケア方法でなくては治らないということはありません。
まず、簡単にお答えすると、上記のケア方法でも治癒するでしょう。また、経費も少なくて済むでしょう。
治り方が早いか遅いか、治らないか、このケア方法が最適かなどは、褥瘡保有者の状況 (年齢、知覚運動機能、意識状態、栄養状態や殿筋萎縮や骨の突出状態、排泄や失禁など)、保有者の環境 (寝たきり、体位変換状態、寝る時のマットレスの種類、坐位の時間やクッションなど)、床ずれの局所の状況 (褥瘡の深さ、大きさ、ポケットの有無、おむつかぶれ、テープかぶれ、ラップによるかぶれや皮膚の浸軟 [白っぽくふやける] の状況)、その他、いろいろな要素によって変わります。私も、その方の状況を自分自身で確認しなければ、最適なケア方法を決めることはほとんど困難です。私の経験からこの方の状態を推測しますと、歩くことは困難で、多くはベッド上で生活し、介助で車いすに移動し、食事は自分でなんとか食べられ、食事は車いすかベッドの頭側挙上で摂取、おむつ使用、肛門周囲は多少のおむつかぶれ、殿筋の萎縮があって殿部中央の仙骨は突出、床ずれは表皮が剥離し、一部では組織欠損が真皮を超える、などかな、と思います。これらの状況は、尾骨部の褥瘡に多い状況です。

局所ケアについて説明します。

洗浄

洗浄は普通の水道水でよいのですが、もししみて痛い時は、1%の食塩水を使用すると、体液の浸透圧とほぼ同じですから、しみません。温度は体温程度がよいでしよう。水が冷たいと、局所が冷えて循環が悪くなるのでよくありません。きれいに洗った後、暖かい風呂に入ると、体が温まり、よいと思います。石鹸は泡状のものがよく、消毒用石鹸は使用しないでください。こするのは、あまりよくないと思います。

清拭

洗浄後の清拭は、やっておられるように抑える程度でよいです。

創の被覆

「創傷被覆材」と国で決められているものは、

  • 創面の保護
  • 浸出液の吸収
  • 細菌繁殖の抑制
  • 肉芽組織や表皮の形成促進

などに有効とされるものが指定されており、私でしたら、この方には、デュオアクティブCGFを貼付し、その上に、粘着性フィルム (例: テガダーム、オプサイト、サージット、エアウォールなど) を貼り、尿便による汚染を防ぐ方法を選ぶでしょう。ただし、使用サイズによっては、費用がかかるので、質問にある方法を否定するものではありません。ラップは外からの汚物の侵入を防ぎますが、中からの浸出液も通しませんから、浸出液が周囲の皮膚につき、かぶれを起こす傾向があります。私がラップを使用する場合は、創面サイズの数分の一の大きさにラツプをちぎり、これを落ち葉のように重ねて創面を覆います。ラツプが皮膚の上にかからないようにします。このようにすると、ラップ同士の間から浸出液が外に出て、外の吸収体 (尿取りパッド) に吸われます。私はこの方法を「落ち葉式ラップ被覆法」として日本褥瘡学会にも報告しています。なお、私は10年以上前から、浸出液吸収材料として尿取りパッドを適当な大きさにカットして使用しており、現在では、日本各地に私の方法が広まっています。落ち葉式と尿取りパッドを使用した場合の経費は大変安価です。ラップは、ガーゼと異なり、顕微鏡的にも平坦であり、創面を傷つけることがありません。ラップ療法の優れた点として「湿潤環境保持」がうたわれていますが、私は機械的刺激を起こさない点を最も有効な長所と考えています。私は、ラップの下にはなにも使いません。使用されている軟膏が何かはわかりませんが、今の状況は細菌感染がなく、壊死組織もほとんどない局所状況かと推測しますので、軟膏塗布は不要ではないかと考えます。

その他の注意点

尾骨部褥瘡の発生は、ベッドの頭側挙上、坐位での前ずれなどで起こります。体重が尾骨部にかかっている状態で殿部がまえにずれると、尾骨部の皮膚が後に引っ張られ、尾骨との間に「ずれ応力 (応力とは外力が体内に移ってから働く力をいいます)」が働いて、皮膚および深部組織の損傷が発生し、褥瘡が形成されます。前ずれが起きないよう、頭側挙上をする前に、大腿後方にクッションやざぶとんを置いて、ずれ落ちない工夫をしてください。褥瘡発生予防ケアは褥瘡治癒促進ケアでもあります。

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